2012年12月30日日曜日

Book Review: 恥辱

タイトル:恥辱(早川書房)
作者:J.M. クッツェー(Wikipedia
訳者:鴻巣 友季子


夜中の一時ごろもう本を閉じて寝ようかと思う頃になって、主人公の娘ルーシーの強姦に関する新たな事実が分かり、最後まで読み切ってしまわないわけにはいかなくなって、読み終えたのだけどそのせいでなんだか夢にうなされる羽目になったような気さえしてしまう重たいお話。



大学の教職の地位から追われて娘の住む田舎に身を寄せ、新しい地に苦戦しながらも馴染んでいき、生活が好転するのかと思って読み始め、しかし、彼自身の問題というよりも、都会人的な人なら誰でも受け入れ難いと思われる、娘の頑固なまでの田舎への服従心、あるいは、農園に対する愛着によって辱めに甘んじざるを得なくなる。

読みきってなお胸糞の悪さみたいなものが残るけれど、一つ救いがあるとすれば、南アフリカという新旧の価値観がせめぎ合う時代、場所で主人公が「学ぶ」ということを再び見出したことだろう。きっと彼は新たに得た謙虚さで心の整理をしていくに違いないのだが、逆説的に、学び、慣れることは異質の価値観からして見れば恐るべき恥辱の受け入れであることも説いているように思えてならない。

友人にすすめられて読んでみたのだけど、(いい意味で)すごい本をすすめてくれたな…という印象です。分量はそれほどでもないので、濃ゆい小説を手軽に楽しみたい方におすすめです。


2012年12月28日金曜日

ガルシア=マルケスの小説を読んで学んだこと -ガルシア=マルケス全小説-

大江健三郎氏が何かのエッセイで、通年で一人の作家の本を読むことがあるというエピソードを書いているのを見て、中学生の頃からなんかかっこいいな、という憧れがあり、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』に出会ったのをきっかけに「マルケス全集を読み切る」というのを2012年の目標の一つに設定したのでした。

自伝の『生きて、語り伝える』を含む全集を読み終えた今となっては、恋人と旅行に行って、日常生活に戻っていくときに感じる心の空白みたいなのを感じるぐらいにはマルケスとの2012年は心躍る1年間だったようです。


※全集を左から年代順に並べみました。

一冊ずつのレビューではなく、全体を読んで感じたことなどをまとめておきます。

マルケスも最初から「マルケス」ではなかった

最初は、本屋にあるのを片っ端から買って読んでいこうと思っていたのですが、初期の作品と後期の作品の明らかな違いみたいなものがわかってからは、書かれた年代順に読むようになりました。

どれも素晴らしい作品だと思ったけれど、やはり一人の作家の成熟というのを感じられるのも興味深かったです。どの作品も、もちろん他の誰も追随はできないのですがあえて言うならば初期の作品は、文章が技巧的で物語もなんだかわざとらしいという印象を受けてしまうのに対し、『迷宮の将軍』あたりから長編小説家としてのマルケスの本領が発揮されているのがよくわかります。

最も有名な『百年の孤独』をマルケスのマジックリアリズムの完成形とするなばら、ノーベル賞作家でも初めから完璧な語り手でも、洗練された技工の持ち主でもなかったということを伺い知ることができます。

このことは、人がライフワークとして取り組むべき仕事に最初から完全などないということを教えてくれ、また、時とともに変化すること、歳をとるというのは素晴らしいことなのではないか、という示唆をくれました。

抜群のセンスで書かれた長編小説

良い長編というのは、なぜか静かな感動を運んでくれる、と私は信じています。それは小説の内容に感動するかどうかとは関係なく、言葉で紡がれた世界をくぐり抜けたときに感じる心の動きで、本好きな人になら経験のある感情ではないかと思います。この種の感動は本の長さと相関がゼロではないけれど、小説の質とは深い関係があるように思います。

数年に一度こういう小説に出会えれば結構満足していたのですが、『迷宮の将軍』『百年の孤独』『コレラの時代の愛』でこの感動のようなものが起きました。マルケスの長編には小説を芸術作品に押し上げる真っ向勝負のセンスがあるようです。

南米の緊迫感と日本の緩さ

マルケスに限らず、ラテンアメリカ文学(日本語訳されている一部の良い作品にだけ触れているということもあるのでしょうが)にみなぎる躍動感や物語の多様性、詩的なできごとは日本の小説にはなかなか見られないので、なぜラテンアメリカの文学が好きなのか?という漠とした気持ちをマルケス読破を通して解明したいというのが今回の一つのテーマでもありました。

その理由の一つはラテンアメリカ文学が発展を遂げた社会的背景にあることが先日解明したのですが(その理由についてはこちらの記事を参照してください。 - Book Review: 魔術的リアリズム -20世紀のラテンアメリカ小説-)、それ以外にもマルケスの小説を読んで感じたのはラテンアメリカの社会的、環境的背景からくる緊迫感のようなものかな、と思いました。

現代の日本では、夜暗い道を歩いていて襲われることもなければ、変なことを言ったからと言って、村八分にされたり権力に抹消されることもありません。日本では様々な選択をせずとも(先送りにしても)生きていけるのです。しかし、マルケスの小説に生きる人々にとっては、物理的に生活することは何かを選択することであり、間違った選択は貧困や死をもたらし、たとえ正しい選択をしたとしてもすぐにまた新たな選択を行わなければいけない状況に置かれている印象を受けます。

『生きて、語り伝える』を読むと、マルケスの小説の着想、逸話のほとんどが彼自身の体験と親族から語り聞かされた物語から構成されていることに驚かされます。マルケス自身が人々から語られる不思議な世界を生き、それが文字になったのが『落葉』であり、『百年の孤独』なのです。

この例からもわかるようにあらゆる芸術作品は、抑圧や愛など、あらゆる方向からの作者のオブセッション(脅迫観念)に起因するものが多いと思いますが、日本は身体的に脅かされることがほとんどないので、作品が精神面を描く内容に偏りがちになります。個々人の体験というよりは、意識や精神の下部の注目し抽象化したものを、具体的な物語として扱うとどうしても似たようなテーマにならざるを得ないのではないでしょうか。

ファストブックと本当の小説と

マルケスを読みながら考えていたのは、日本でヒットする本のほとんどはファストフードならぬファストブックなんだなぁ、ということです。世界のトレンド自体もそうなのかもしれませんが...。

サスペンスとしてのドキドキ感やストーリーの感動はよく売れている本にならたいてい含まれています。私もそういうのが好きでマルケスを読む合間にサスペンスなんかを電子書籍でよく読んでいますが、その本を読んで何かが自分の中で変わるほどの衝撃や新しい出会いをもたらしてくれるものはめったにありません。わくわくするエンターテイメントか人生のちょっとした学びをもたらしてくれる本がほとんどです。それらの本は数年後に思い出そうとしても似たような本に埋もれてよく覚えていないわー、となってしまったりします。

一方マルケスやその他の古典的名著と呼ばれるカテゴリの本は、仕事で疲れているときには頭が受け付けないことがあったり、この本おもしろいかも、と思うエンジンがかかるまでに忍耐を要求してきたり、ときにはタイミングがあわずに読み進めることすらできないことが少なくありません。ただし、一度読みきればふとした瞬間に本のシーンを思い出したり、不思議なことになぜか覚えていた一行にこめられた深さに突然思い当たったり、またあの本を読みたい、と思える時が巡ってくるという特典がついているのです。これは人生の最高の楽しみの一つと言っても過言ではないのではないでしょうか。

小学生の頃には、本を読むことはほぼ勉強していることと等価として我が家では扱われていました。その頃読んでいたのはもちろん児童文学の棚にある本でしたが、今は幅広い本棚を相手にして本を選ぶことの難しさを実感しています。脳に刺激を送るためだけの読書にならないように、本好きとしてはファストブックでない本にたくさん出会っていきたいという思いをこれからの本選びの指針に据えたいと思います。

最後に…

ラテンアメリカ文学はマイナーな分野なだけに日本語翻訳をする人も限られているのですが、どの翻訳者の方も良い翻訳をしてくれているので、マルケスの全集も安心して読むことができました。

長々と書いてしまいましたが、マルケスの本を読みたいという方がいれば、『百年の孤独』は絶対におすすめできます。

※余談ですが、2012年の中国の海外作家印税ランキングで『百年の孤独』は2位につけてますね。
http://www.chinadaily.com.cn/china/2012-11/29/content_15972558.htm

長編なら『コレラの時代の愛』は恋愛小説なので非常に読みやすいのでこちらもおすすめ。

個人的には、『わが悲しき娼婦たちの思い出』は、老人文学?というのでしょうか、年老いた人からの視点で描かれる珍しい小説ですのでおもしろく読むことができました。

   

どの本もお高いのでお知り合いの方には、貸し出しいたします。

『生きて、語り伝える』の続編を期待しつつ、来年はどの作家の本に取り組むか、取り組まないかを検討中の今日この頃です。

2012年12月19日水曜日

Book Review: 魔術的リアリズム -20世紀のラテンアメリカ小説-


タイトル:魔術的リアリズム ― 二〇世紀のラテンアメリカ小説(水声社)
作者:寺尾 隆吉


莫言氏のノーベル文学賞の受賞と個人的な2012年のマルケス全集読破の目標のため非常にタイムリー!と思って手にした本。


そもそも魔術的リアリズムって何?という方の方が多いと思いますので、先に定義的な本からの抜粋で要約しておきます。

魔術的リアリズム(マジックリアリズム)の手法には二段階あり…、

「正常」とされる日常的視点を離れて、「異常」・「非日常的」視点から現実世界を捉え直すことにある。

さらに、

非日常的観点を個人レベルにとどめるのでなく、それを集団レベルに拡大し、一つの「共同体」を構築するところにある。

とされています。また、

そして、魔術的リアリズムの作家たちは、現実世界を別の角度から照射することでその欠陥を浮かび上がらせ、そこから間接的に社会変革に寄与しようとする。

とあります。

マルケスを読んだ時に感じる、現実離れしているイベントが起こるのに現実味があり、真実味を帯びた物語になっている秘密はここにあったのかぁ、と納得。

ただし、単に現実とファンタジーを織り交ぜたなんちゃって魔術的リアリズムが昨今は横行しており、1960年代、70年代のブーム後は娯楽小説のために表面的に取り入れられた作品も多いと、筆者は指摘しています。

確かに、娯楽のために不思議な要素を入れるのと社会の問題の暴露や、戦争や独裁の時代背景からくる個人の強烈な体験を昇華させる小説ではその質に大きな違いがあるのは、魔術的リアリズム的作風によらず別物として捉えるべきだと私も思っています。



また、個人的に非常に納得させられたのは、ラテンアメリカ文学の質の高さに関して。

当時の文盲率の高さ故、高等教育文学部設置の流れからの知識人すなわち読者の図式故に難解なものほど好まれた時代背景に依って、ラテンアメリカ文学が簡単な娯楽として発展しなかったことが大きかったとのこと。

ここ数年ラ米の文学を読んで(日本語に訳されているのでその時点で厳選されたものばかりなのですが)、どれもこれもおもしろい!おもしろい!と驚愕していたその理由がわかって嬉しかった次第です。

一つの文学ジャンルを研究対象とした本をほとんど読んだことがなかったので、非常に勉強になりました。

魔術的リアリズムに興味を持った方は、ぜひ『百年の孤独』から。オススメします。

 

Book Review: ロスト・シンボル

『ダ・ヴィンチ・コード』で一世を風靡したダン・ブラウン「ロバート・ラングドンシリーズ」の最新作が『ロスト・シンボル』です。

Amazonキンドルで上巻がセール価格になっていた(って後で気がついたんだけど)ので、読んでみました。

正確には読んでみましたというより、前から読みたいと思っていた本をついに読んだという感じなのですが。

※ただし、今はAmazonの中古で紙の本を買う方が安くすべての巻を揃えることができます。

これで、『天使と悪魔』と『ダ・ヴィンチ・コード』とあわせてラングドンシリーズ読破(^o^)

ラングドンシリーズは、テーマがイエスの聖杯やらフリーメイソンやら名前を聞くだけでわくわくしてしまうオカルトな感じなのでこの時点でがっつり心を持っていかれているのですが、ダン・ブラウンが書くならサスペンスとしてきちんともおもしろいに決まっている、という安心感があるので好きなんです。


トム・ハンクスとオドレイ・トトゥ主演の『ダ・ヴィンチ・コード』であまりにも有名なので知らない人は少ない作家さんですが、オカルト好き、もしくは上質なサスペンスを読みたい方はぜひ。

ちなみに、それぞれの作品の物語のおける関係はほとんどないので気になった作品から読むので大丈夫だと思います!ちなみに、それぞれの舞台と結社は下記の通りです。

  • 天使と悪魔:イタリア、バチカン:イルミナティ
  • ダ・ヴィンチ・コード:フランス:(聖杯の秘密について)
  • ロスト・シンボル:ワシントンD.C.:フリーメイソン

2012年12月17日月曜日

Movie Review: ヒューゴの不思議な発明

『ヒューゴの不思議な発明』、少し前にDVDで見た映画なのですが、先にアップしたホビットの音楽を手がけたハワード・ショアがこちらの音楽も手がけていたつながりで思い出したの簡単にレビュー。


冒頭から、パリの夜景と時計台の中の非現実的な映像に圧倒されます。映画館では3Dだったみたいです。きっとすごくきれいだったと思います。

子ども向けのファンタジーかと思って見始めたけれど、いい意味で映像の色調がただのお伽話ではないことをわからせてくれます。映像の色が毒のある濃さを持っている、というのかな。さすがマーティン・スコセッシ監督…シャッターアイランドの監督だけあって、迫力のある映像は得意なのかなぁ、と。

ストーリーの内容も夢があって和みます。
映画への愛と子どもの見ている世界の肯定感にあふれています。

もうDVDでレンタルできます。きっと新作じゃなくなっているはずですので、ぜひ。



原作は、2007年刊行のブライアン・セルズニックのグラフィック・ノベルなんだそう。
機会があれば原作も読んでみたいな。

Movie Review: ホビット 思いがけない冒険

2003年に公開されたロード・オブ・ザ・リングから10年近くの時が経とうとしている2012年年末に数カ月前から非常に楽しみにしていた映画が公開されました。

その名も『ホビット』。






ロード・オブ・ザ・リングをご覧になった方ならわかると思いますが、主人公のイライジャ・ウッド扮する小さな人間がホビットです。

今回の映画『ホビット』は、フロドに指輪を渡したおじビルボの冒険の物語、ビルボがあの指輪を手に入れる物語でもあり、ドワーフ(ロード・オブ・ザ・リングのギムリ、レゴラスでもアラゴルンでもないもう一つの背の低い種族)の故郷奪還の物語でもあるわけです。

え、ギムリの種族が主人公か…と侮ることなかれ、きちんとかっこいいドワーフが何人か出てきます。とってもガサツで、見るからに臭そうな旅の一行ではあるんですが。

個人的なおすすめドワーフは、
王族の末裔で、ビルボの次ぐらいの主役Richard Armitage(リチャード・アーミティッジ)



と、Kili役のAidan Turner(エイダン・ターナー)です!!



あと、映像が相変わらず素晴らしいです。また、アイリッシュな感じの音楽がたまりません。


ドワーフの御仁たちの歌うMisty Mountains(最初の方に流れている低い音の歌)しびれます。

好き嫌いの別れる映画だとは思いますが、私は多分年末年始にもう一度映画館見に行く予定です。

ちなみに、今回は3Dで見たのですが映像の本来の明るさを楽しみたいので次は2Dで(・∀・)

ホビット:http://wwws.warnerbros.co.jp/thehobbitpart1/
※ドワーフ一人ひとりのブロマイドポスターがダウンロードできたりします。

* * *

ちなみに、こちらはロード・オブ・ザ・リングの原作『指輪物語』の著者トールキンの作品『ホビットの冒険』の映画化です。



昔に読んだ感じだと、三部作にするほどの分量ではないかな、と思っていたのですが、映画を見た感想としては、物語も冗長には感じられなかったし、ファンとしては中つ国に映画三回分浸れるなんて!今から次の作品も楽しみです。