2019年6月28日金曜日

Book Review: ヌヌ 完璧なベビーシッター



ヌヌ 完璧なベビーシッター(集英社文庫)
作:レイラ・スリマニ
2016年ゴングール賞受賞作品

「赤ん坊は死んだ。」という衝撃の書き出し。幼い姉弟の面倒はもちろんのこと、家事までも完璧にこなすヌヌ(ベビーシッター)のルイーズが二人の子どもを殺し、自殺を図るところから始まり、なぜそんな事件が起こったのかがヌヌに出会う少し前の夫婦の様子から描かれて行くサスペンス風のお話。

まず、最初に感じるのは母親ミリアムが自らのキャリアを横に置き、二人の子どもを育てている閉塞感、屈辱感。「あなたはいいわね」というミリアムの台詞は、自分も夫に言ったことのある言葉で母親を取り巻く子育ての環境に胸が詰まってしまいまう。

いいヌヌに出会えたことで、安心して子どもたちを預け、上の世代からの「放っておき過ぎなんじゃないの」というプレッシャーを感じるとむきになって、大丈夫、最高のヌヌに出会えて恵まれていると自分に言い聞かせる。

実際にルイーズは、清潔で規則正しく生活を送る。子どもたちにも好かれており、以前の雇い主からの評判もよい。

ただし、彼女の中にはどこかどす黒い狂気の渦のようなものがあり、ルイーズが家族の中に存在感を増すほどに雇い主の夫婦もその片鱗に気づかずにはいられない。が、その度に今の環境を手放すことと天秤にかけ、目をつぶってしまう。

決して、個人的な恨みや待遇の不満ではないものの雇う側と雇われる側、その社会的な断絶や力の差、想像力の行き違いがルイーズの狂気を現実に溢れ出させるには十分な環境であることを少しずつ描き出していく。

自分とは生まれも、文化も教育も違う人々を受け入れる難しさという社会問題の提起だけでなく、孤独が人にもたらす狂気についても、心をざわつかせる良作。