タイトル:若い芸術家の肖像(新潮文庫)
作者:ジョイス(Wikipedia)
訳者:丸谷才一
ぼくの魂は、少年時代という墓場から立ちあがり、その屍衣をぬぎ捨てた。そうだ!そうなのだ!同じ名を持つ偉大な工匠のように、魂の自由と力から誇らかに創造しなければならぬ。生けるものを、新しく天翔ける美しいもの、精妙にしてしかも亡ぶことのないものを。海外の文学作品を読むのは大好きなのだけれど、あまり体系的にその系譜などを学んたことがない私にとっては(というか、そういう解説などの本をあまり大人しくよむことができない)、作中で引用されていた作品やパロディなどから、世界の作家たちがどんな本を読んでいるのかを探っていく感じに次に読みたい本を決めていく節があって、ジョイスという偉大なアイルランド人作家がいるらしい、「ユリシーズ」というのは名作らしい、といろいろな本を読むにつれ了解されてきたので、さすがに名前ぐらいは知っているこの本に取り掛かろうかと思ったのだけれど、アマゾンで調査したところ1,000円を超える分厚いに違いない文庫が4冊もあり、尻込みしていた。
ならば、まずはジョイスとの相性を知ってからこの大作に挑んだほうがよいだろう、ということで手にしたのが「若い芸術家の肖像」だった。
主人公スティーヴンのアイルランドでの幼少期から大学生時代までを描き、この感じやすい少年が厳格なカトリックの教育を受けながらも、その思想との折り合いに悩み、芸術への道を志す旅に出るまでを描いている。
驚いたのは、この作品の完成度の高さだ。ジョイスの最高峰はユリシーズだと思っていたのに…。文体の美しさは訳者の功労も大きいのだろうが、才能がある天性の作家の文体であることを主張しながらも、巧妙なバランス感が全体を通して感じられる。ストーリー自体は手が込んだものではないけれど、それ故に作品としての芸術性の高さ、小説としての完成度の高さを見せつけてくれてる。
これぞヨーロッパの文学の醍醐味、といった感じ。
それから、この少年の感じやすさ、啖呵の切り方、もう自分に重ねちゃって共感しまくりでした。カトリックの教育(私のはそんな厳格じゃないけど)を受けながらも、否定はせずとも自分の信仰として受け入れることへの抵抗感や、少年時代のためらいがちな人間関係の作り方、頭で考え過ぎたために起こる社会への無駄な対抗心などなど…。
いつも思うのだけど、こういう芸術家志望な青年に似ていると思うのは、読者の誰でも自分の若い頃に似ていると感じるのか、それとも、私が本当にこういう傾向があるのか、どっちなんだろう…、と。
いずれにせよ、こんな本に出会えて私は嬉しい。
新訳も出てる!
読み比べとかしてないのでどちらがいいかとかは、分からないけれど。
