タイトル:ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(NHK出版)
作者:ジョナサン・サフラン・フォア(Wikipedia)
訳者:近藤隆文
少し前のことだが、3月の頭に六本木で開催された、「文芸フェスティバル」の一つのセッションに行ってきた。『恥辱』のクッツェーや、谷川俊太郎の自作の朗読と、翻訳家の柴田元幸氏のコーディネートで『TOKYO YEAR ZERO』のデイヴィッド・ピース氏、『乳と卵』などで有名な川上未映子氏、そして『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』のジョナサン・サフラン・フォア氏の対談セッション。
恥辱は、先日レビューした通りで、川上未映子氏のいくつかの作品とTOKYO YEAR ZEROは読んだことがあって(谷川俊太郎氏の詩については言わずもがな。柴田氏の翻訳作品にも数えきれないほどお世話になっている!)、フォア氏の本だけ読んだことがなかったのだけど、文芸フェスティバルの対談の中で一番心動かされたフォア氏のお話だったので、彼の作品も読んでみることにした。
本の感想の前に、セッションで受けた印象を先に述べておくと、ジョナサン・サフラン・フォアという人は、非常に純粋な人という印象だった。
作家としての彼のスタンスは次の通り。「作品にはメッセージもなければ、問題の解決の糸口の方向性どころか提起しようという気もない。自分が書いたものが誰かに共感されることが、ブロガーや作家との一番の違いであり、作品を書ける幸せだ」、とも。
なんともかっこいいコメント。
作家本人の口からコメントされた本について読むのはなかなかできない体験なわけだが、ひとまず作品にはフォア氏本人の言葉を念頭に置きながらも、作品に没頭することが可能な、小説として十分に満足な経験を提供してくれる本だったと思うし、読みやすくてなおかつ実験的な文章を楽しむこともできる素晴らしい作品だった。彼のファンになった。
「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」は、911のテロで父親をなくした9歳の少年オスカーが、父親の部屋にあった鍵が開くものを探してニューヨーク中の「Black」さんを訪ねて回るというお話。
話は少年の冒険が中心だが、WWⅡ中のドレスデンの爆撃を経験した祖父母の手記も交りながら、大切な人を失った人々がいかに生きていこうとするのかが描かれている。途中ほんの見開き程度の分量だが広島の原爆投下の描写もあり、この話が911後の特別なストーリーではなく、日本においては311も含むある種の受け入れがたい国民的な出来事による喪失と回復への道のりが普遍的なものであると示唆されている。
けれど、何よりもこの本で心動かされるのはオスカーの息苦しくなるほどの健気さであり、それを見守る大人たちの優しさとオスカーへの愛、そして人間味あふれる身勝手さだ。人は本当に身勝手で、そして愛情深くなることができる不思議な生き物だとじんわりと教えてくれる。人って愛しい!文学って素晴らしい!!
もう一点、この本で特筆すべきなのは、インターフェイスが読み手に与える影響に徹底的にこだわっていること。本の制約に日々いかに囚われているかということに気づかされる。ストーリーとは別のところで、おぉ!と、その効果的な使い方に感動して叫んでしまう自分がいたりもした。
ちなみに、映画も見たけれど、こちらも素晴らしい作品なのでおすすめ。でも、時間があるならぜひ本の方を読んで欲しい。
*フォア氏のTree of Codesという作品の紹介ビデオ。こちらも斬新でとてもおもしろそうです。

