90歳のおじいさんの物語と聞けば、どんなに耄碌としたお話が展開されるのか、、、と思いきや、「私」の語り口は、コミカルで、そして、心の機微がとっても瑞々しい。それだけでなく、主人公は、「満九十歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛して、自分の誕生祝いにしようと考え」たことで、実際にそれを実行し、かつてないほどに人の心を開いて生き生きと生活しているのが伝わってきます。深刻な死への想像すらも読者にとってはほほえましく見えてしまうのです。
90歳でもこんなにものを考えることができるとしたら、こんなにも誰かに恋焦がれることができるとしたら、老いることへの昨今のイメージは何かステレオタイプ的にネガティブになりすぎているんじゃないかと思える作品。何歳になっても恋心は人を若返らせてくれるものなんですね。